うつろ舟のバンジョー
江戸時代、常陸(ひたち)の国(現在の茨城県の大部分を含む地域)の海岸に謎の物体が流れ着いたという話があります。 「江戸時代のUFO遭遇事件か!?」と超常現象本では定番級のオハナシです。 虚舟(うつろぶね)の蛮女 享和三年 […]
江戸時代、常陸の国(現在の茨城県の大部分を含む地域)の海岸に謎の物体が流れ着いたという話があります。
「江戸時代のUFO遭遇事件か!?」と超常現象本では定番級のオハナシです。
虚舟の蛮女
享和三年癸亥の春二月廿二日(1803年4月13日)の午の時、常陸国の『はらやどり』という浜の沖に、舟のような物が漂っているのが見えたので、漁民が小船でそれを浜まで引き寄せた。
香盒のような丸っこいカタチの、円盤型の舟(註:香盒とは香を入れるフタ付き容器のこと)。長さ三間(約5.5m)ほど。天蓋にはガラス障子を松ヤニで塗り詰めた窓があり、底側の下半分は鉄が段々に貼られ縞模様になっている。岩礁にぶつかっても壊されないようにするためだと思われる。
窓から中をのぞくと、一人の女がこちらを見上げてニコニコしていた。その出で立ちは日本人のものではない。筒袖の衣服。顔は桃色、髪と眉は赤毛で、腰まで届く長く白いウィッグをつけていた。言葉も通じない。
二尺(約60cm)四方の箱を大事そうに持っており、誰にも触らせようとしなかった。
船内にはまた、謎の文字も書かれていた。
村人たちは扱いに困り、もとの円盤型の舟に女を乗せ、沖に流してしまった。
そんな感じのオハナシです。
この円盤状の乗り物は、うつろ舟や虚舟、うつぼ舟などと呼ばれています。
この奇談は、曲亭馬琴が当時の奇談珍説を集めた随筆集「兎園小説」(1825年)に紹介されている他、このことを記した瓦版などの史料が複数存在しているそうです。
作り話? 実話?
UFO遭遇事件という解釈は楽しいのですが、実際はどうだったんでしょう?
常陸国の『はらやどり』という浜は架空の名前なのか、長らくその場所が特定されず、また船内の文字も外国のものではないため、それを根拠にこの話はフィクションであるとされてきました(柳田國男など)。
箱を持つ女……ということで、鹿島灘に漂着し養蚕を伝えた女神「金色姫」が元になっているという説もあるそうです。
しかし、昨年2014年、甲賀流忍術を伝える伴家の古文書とともに、この虚舟事件の新しい史料が発見され、どうやら現場は、茨城県神栖市波崎舎利浜(しゃりはま)だったらしいことが分かってきました。
茨城新聞:2014年5月13日(火) UFO「うつろ舟」漂着は波崎? 実在地名記載の新史料 「伝説の元の文書か」
結構リアルな史料が多いようなので、何らかの事件はあったのではないでしょうか。
大きいよね
超常現象本で紹介される絵が、上の絵のようなものなので、私は長いことずっと、この虚舟はカプセルみたいな感じで、膝を抱えるような形で女の人が入っていたのだと想像していました。
諸星大二郎先生のマンガ「うつぼ舟の女」(妖怪ハンター~黄泉からの声~)にも、そんな感じの大きさで描かれていましたし……。
しかし、改めて直径三間(5.5m)という部屋を考えてみると、案外広い!
円の面積はπr2なので、2.25mx2.25mx3.14……約15.9平方メートル。面積だけだと10畳間くらい。円形ゆえのデッドスペースがあったとしても、体感6~8畳間くらいはあるんじゃないでしょうか。
長いこと漂流出来そうな気がしてきます。
発見した漁民視点で想像すると、10畳間のナゾのプレハブが漂ってる……さぞ、びっくりしたことでしょう。そりゃニュースにもなります。
あと、だいたい出入口はどんなんだったのか?
不思議な話なので想像を掻き立てられます。
澁澤龍彦の「うつろ舟」も、改めて読み直しましたが、「あれれ、こんなに面白かったっけ!」とのめり込みました。
読みやすい文体で独自の肉付けがなされ、時空を交錯した展開の不思議物語に、この事件を昇華させています。
不思議な話は、実に面白いなぁ。
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