F氏との対談……その3

F氏とZazaの対談(第三回)を掲載します。
今回は、変拍子を使おうと思った経緯などを中心に、苦心談とともにお届けします。

 

F氏とZazaの対談(第三回)を掲載します。
今回は、変拍子を使おうと思った経緯などを中心に、苦心談とともにお届けします。

■変拍子

F氏 ── ここまでは順調だね。作曲では苦しまなかったの?

Zaza ── そうですね、なんか曲は喜んで書いたので。
ただ、「オラクル」は難しかったかなぁ。3番目に作った曲なのですが、ここではじめて変拍子を使う方向性に、明確にシフトしたんです。

F氏 ── なんでまた、変拍子を使おうと思ったわけ?

Zaza ── 過去に自分の作った曲の多くは、マイナーコードだったり、クロマチック進行だったり、ダークで怪奇趣味が全面に出ていたのですが、「ヴィマーナ教習所」と「モーゼ」は、めちゃくちゃ明るくて、曲も単純です。それが、作っている自分としては新鮮だったのですが、もし自分が聴く側(リスナー)だったら、もう少し複雑なものを聴きたいかな、と思ったわけです。

F氏 ── はっはっは! 単純さに耐え切れなくなったんだね。

Zaza ── いや、そういうわけでは……

F氏 ── Zazaくん、君は自分のことをよく分かっていないようだから言っておくけど、君は随分複雑な人間なんだよ。

Zaza ── なんか複雑な気分です。

F氏 ── ほらね(笑)

Zaza ── うむむ。で、ですね。アイヌ神謡集なんかを思い出して……。あれって、繰り返す感じで朗読されてリズミックなんですけど、フレーズによって言葉が収まりきらなかったりすると、その言葉に合わせて長さが変わったりするんですね。
あれが、本来の音楽の姿なのかな、とちょっと思っていて、このオラクルって曲は4/4拍子から離れてみようかな、って思ったんですよね。神様絡みの歌だし。

F氏 ── アイヌ神謡集……ねぇ。

Zaza ── そしたら、面白くてハマってしまって(笑)。そうこうしながら、何曲か作ってみたら、もう、トライアングルマーチの音楽の特徴になってしまったかな、と。
リズムが複雑になって、Yukkyには申し訳なかったんですが、「トライアングルマーチの音楽はプログレポップだ!」って言えることは、ちょっとよかったかなって思っています。

F氏 ── 新ジャンルだから?

Zaza ── 「ジャンルに当てはまらない!」というよりは、「自分たちの音楽は、プログレポップだ!」と明確に説明しようとしている姿勢のほうが、潔いと感じましたので。不必要に難解な感じを出したくなかったんです。

F氏 ── ほう!

Zaza ── 「プログレ」も「ポップ」もなんとなくイメージできますしね。

F氏 ── 確かにね。

Zaza ── まあ、曲作り全般は、楽しく出来ました。別の仕事もあるので、限られた時間しか音楽制作に関われませんが、許されればどんどん作ってみたい感じはします。500曲くらいばーっと作れそうな気はしているんですけど。

F氏 ── 威勢いいね!

 


■問題作

Zaza ── でも、問題作もあったなぁー。

F氏 ── 問題作!?

Zaza ── 「さいしょの数」ですね。これ、エリック・サティの「家具の音楽」みたいな、「家具の音楽ポップス版」をつくろうと思ったのです。

F氏 ── 家具の音楽?

Zaza ── 家具の音楽って、家具のようにそこにおいてあるだけってカンジの音楽で……あ、Wikipedia見てみますね。……「家具のように、そこにあっても日常生活を妨げない音楽、意識的に聴かれることのない音楽、といったものを目指して書かれた曲である」だそうです。

F氏 ── へー。

Zaza ── 当然なんですけど、単体として聴くと面白く無いらしく、エンジニアさんやスタジオから色々言われたんですよ。サビがない……というか短いのが気持ちが悪いみたい。あと、知人に聞いてもらったりしても、評判が悪かった。初期バージョン段階の話ですけど。

F氏 ── あ、そうなの?

Zaza ── 最初は4/4拍子だったんですよ。
で、展開しない感じやサビがない感じが嫌われたみたいで……。でも、この曲の舞台は「バベルの古書店」という時間が止まったような場所なので、時間が円環状に閉じ込められた音楽にしたかったのです。メロトロンのコーラスを蓄音機風にしたり、レコード針のノイズや、オルゴールを使ったのも、円環状に閉じ込められた時間って意味です。別解釈風な意味合いでCommodore C64の音なんかも入れましたが。

F氏 ── 「バベルの古書店」というと、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「バベルの図書館」からとったの?
(編注:ボルヘス『伝奇集』に収載された短編小説。古今東西過去未来すべての本があるとされる、架空の図書館)

Zaza ── はい。もちろんボルヘスの「バベルの図書館」もイメージしていますが、諸星大二郎の「栞と紙魚子」に出てくる「バベルの図書館」や紙魚子さんチの古書店っぽいイメージも、ありますかね。あとそこに、ヤン・シュヴァンクマイエルの「ヴァイスマンとのピクニック」が室内で展開されている……そんなイメージも重ねつつ、「バベルの古書店」をイメージして作曲&アレンジしました。

20140103_Yukky_バベルの古書店

F氏 ── 「ヴァイスマンとのピクニック」って、ちょっと記憶に無いけど、ヤン・シュヴァンクマイエルだから短編アニメーション映画?

Zaza ── なんか、洋服やトランプや椅子や机が、野原で勝手に動いているような、そんな短編映画です。

F氏 ── 観たことあるかも。シュヴァンクマイエル短篇集かなんかに入っていて観た気がするよ。

Zaza ── この曲は、ずっと悩みました。アルバムに収録しない、という選択肢も、最後の最後まで残し続けました。

F氏 ── 何か、最終決断するキッカケみたいなものは、あったの?

Zaza ── 不思議なもので、メンバーは全員この曲の意味を分かっていて、気に入ってくれていたんですよ。だから、最終的に収録を決めました。この曲は、どちらかと言えば、間奏曲的な感じです。歌詞などを含めて考えても、話の流れには直接関わっていないのですが、この物語の重要な原理を歌っているので、入れておく意味がある。
自分たちの作品なのだから、あまり外部の人たちの意見に惑わされてはいけないな、と。他人からの意見は、ありがたく聞いて素直に参考にすべきですが、他人からの意見を元に決定を下してはいけない。決めるのは、我々が責任をもって決めるべき。という当たり前すぎる部分で苦しみました(笑)。

F氏 ── 部分を指摘するしか、他人は出来ないからね。特に制作途中は、(他人は)完成像を持っていないから。大局的に、全体を見据えているアーティスト本人が決めるべきだよね。

Zaza ── とはいえ、褒められない、というのがずっと不安のタネになるのです。小心者ぶりをお笑いください(笑)。

F氏 ── おう! 笑っちゃる(笑)! Zaza君がうろたえる様子は、ちょっとおもろい(笑)。
ちょっと話を戻させてもらうけど、初期バージョンは4/4拍子だったって言ってたけど?

Zaza ── 歌入れの時も、4/4でした。で、ミックスし始めて「うーん、これやっぱアレンジ多少変えよう」と思い始めて……先ほどの不安のタネの影響もあるんでしょうが……打ち込みしなおしたんです。そのとき、3/4と4/4が入り交じる感じになりました。ベースラインは、初期バージョンはミニマルな感じでしたが、大きく変更しました。

F氏 ── へー。いろいろ手を加えているんだね。

Zaza ── 良いことなのか悪いことなのかわからないのですが、各曲5~6個以上の別バージョンがあったりします。迷いや煩悩が多かったせいかもしれません(笑)

 

次回に続きます。
また、対談中の1st Album 「ヴィマニカ・ヴィマニカ」は発売中です。未入手の方はぜひ!


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